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経済評論家・山崎元 が語る 転職原論 ~20・30代ビジネスパーソンのための転職成功ガイド~

10.会社の辞め方

(2010年1月21日)

大切なのは「次の会社」

大切なのは「次の会社」

転職を決めて、現在の勤務先を辞める手続きは、従来よりも簡単になっている。転職自体が増えて一般的になり、多くの会社が転職者の扱いに慣れた。

しかし、退職の意思表明から仕事の引き継ぎなどを経て実際に退職するまでの手順は、経験がない場合、とまどうことがあるだろう。

退職にあたって重要な事は、予定通りに後に問題を残さずに辞めることと、次の会社に良いコンディションで移れるようにすることだ。転職に興奮して、辞める会社の側に過度なエネルギーを注ぎ込む場合が時々あるようなので、注意したい。退職の日までの、意識の置き方としては、「次の会社に三分の二、今の会社には三分の一」というくらいで丁度いい。

嘘を付かずに堂々と辞めよ

会社に退職の意思を告げて、これに合意を得て、退職日を確定するまでの間で、先ず問題になるのは、転職先の会社名を言うかどうかだ。原則として、行き先の会社名は言う必要がない。もちろん、同僚にも退職の日まで言わなくていい。「迷ったら、言わない」と決めて置いていいだろう。

転職の意思を告げられたとき、上司を含めて会社側は「この転職は止められそうか、そうでないか?」と考えながら、慰留の説得をすることが多いが、この際に、行き先の会社名を告げると、その会社の悪口や転職の不安材料を散々聞かされることになる可能性がある。新しい出発を前に、これは精神的に望ましくない。「次の会社は私の問題で、今の会社には関係ありませんので、最終日に、退職の挨拶の際に申し上げます」とでも言って、転職先に関する議論を封じるのが賢明だ。

また、二つの会社の関係によっては、転職先の会社に手を回して転職を潰されることもある。たとえば、A社の重要顧客であるB社に勤めている社員が、A社に転職しようとしたときに、B社からA社に対して「ウチの社員を引き抜かれては困る」と通告されて、転職が白紙に戻るということがある。あるいは、両社の社長同士が知り合いで、社長同士が相談して転職を止めるというような可能性もある。

転職を止められると、表面的には会社に残ったことを会社側が歓迎するが、人物評価としては「彼(彼女)は一度会社を辞めて転職しようとした人物だ」という芳しくない評価が後々まで残る。たとえば、会社は重要な仕事をこうした人物に任せることを躊躇するようになるだろう。

一方、トラブルを避けるために、「留学して勉強をする」というような嘘をつくケースがあるが、これは感心しない。小さな嘘であっても、嘘は嘘だ。精神的な負い目を残すことになるので良くない。転職の前後の様子は後々まで記憶に残るので、自分を「嘘に逃げた人物」として記憶するのはつまらない。

引っ越しの荷物は軽く

引っ越しの荷物は軽く

厳密には、会社で得た物、作った物は、自分が作った物であっても持ち出してはならないというのがルールだ。特に、顧客の情報など、会社の業務上のデータについては、持ち出すとトラブルの元になる。通常、ネットワークにつながったPCは操作が記録されており、誰がどのデータにアクセスしたかを辿ることが出来るので、持ち出すことは出来ないと理解しておこう。

ある外資系の証券会社では、休日に出勤して仕事のファイルを持ち出そうとした社員の姿がビデオカメラに映っていて、その社員は転職後に訴えられて転職先から解雇された、というような映画かドラマの一シーンのような話を聞いたことがある。

しかし、仕事の際に手に入れた名刺など、手元に無いと近い将来直ちに不便を感じる物もあるし、自分が勉強中のテーマの資料など、機密性のない資料で手元にもっていたいものもあるだろう。また、自分が作った書類などで、フォーマットを将来活用したいものがあるかも知れない。

法律や会社のルールに触れないことが大事だが、何を持っていくかについてはあらかじめ見当を付けておいて、必要な物を確保しておいてから、退職の意思を伝えるようにしたい。退職の意思を告げてから書類を大量にコピーしたりすると、データやノウハウ持ち出しの嫌疑が掛かることがあるし、トラブルにならなくてもいかにも露骨で目立つ。

あくまでも個人的な経験に基づく感想だが、転職の際に持ち出した資料は、その時に思うほどには、後で役に立たない。筆者の場合、過去の資料を転職の際に持ち出しても、後から参照した記憶はほとんどない。トラブルを避けるためにも「引っ越しの荷物は軽い方がいい」を方針とすることをお勧めする。

適度な休暇を取ろう

転職の際、次の会社の入社予定日までの間に、出来れば旧勤務先の有給休暇を使って、適度な休みを取ることを考えたい。

退職予定日の一ヶ月少々前に退職の意思を告げて、退職日を決定し、それから一、二週間で集中的に引き継ぎを済ませて、二週間くらい休みを取る、というくらいが理想的なスケジュールではないだろうか。

辞められる側の都合としては、辞めることが決まっている社員は実質的に半分は外の人なので、情報管理上も残る社員への影響上も、あまり長く出社させない方がいい。仕事の引き継ぎをペース・アップさせて、その代わり、辞めていく社員には有給休暇の消化のために協力してやるというのが上司の正しい対処ではないか。

辞めていく側としては、引き継ぎ作業の手順を心積もりして置くことが大切だ。

新しい会社に入ってからは、緊張して疲れることが多いし、入社当初しばらくは有給休暇が取りにくいだろう。あまりに長く休みを取ると仕事の感覚を取り戻すのに手間が掛かることがあり、「ベスト・コンディションで次に入社する」という条件が満たせなくなる場合があるので、二週間くらいの休暇期間をお勧めする。

転職を決めてから次の会社に入社するまでの通常約一ヶ月くらいの期間は、転職を決めるに至った現在の会社の難点から逃れることが決まっている一方で、次の会社に対する希望があり、また次の職場の不都合な部分をまだ見ていないので、「転職活動のご褒美」とでもいうべき非常に快適な期間だ。十分に楽しむといい。

個人と個人の付き合いは続く

転職者が心配に思うことの一つに、職場で築いた人間関係がすっかり失われてしまうのではないかという不安がある。これに関しては、職場で育んできた友人関係などは、十分継続可能なので心配ないと申し上げておく。

「同じ釜の飯を食う」という言葉があるように、同じ場所で同じ目的に向かって一緒に過ごした職場の仲間は縁の深い友人になりやすい。何年も経ってから会っても、共通の話題、共通の感覚がある。付き合いを続けたい相手とは、あくまでも個人と個人として付き合っていけばいい。

筆者の場合も、かつて職場を共にした友人がたくさんいるし、昔の職場の忘年会のような集まりに出掛けることもよくある。間違いなく、転職で友達は増えた。

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