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コラム転職徒然草 - 悲喜こもごも編

社長と秘密求人 (2010年2月2日)

秘密というのは不思議なことに近しい人ほど話しにくい。かといって、まったくの他人に話すわけにもいかないし、ちょうどいい距離感で秘密を共有してくれる相手はなかなかいないものだ。とりわけ、孤独といわれる経営者には…。

Sさん(32歳)は教育事業を手掛けるベンチャーA社の秘密求人に応募した。
A社が求人を秘密にしていたのに、それほど大きな理由はない。この時期に求人をしていると、取引先から要らぬディスカウントを求められるかもしれないという懸念から、採用現場の判断で秘密求人にしただけのことだった。

A社の総合企画職で3度の面接をクリアしたSさんは、最後にN社長との1対1の面接をむかえることになった。
応接室にSさんを迎えたN社長は、あらためてSさんの職務経歴書と求人票を手にして急に「ン?」という声をあげた。
「この秘密求人というのは…」
「はい。今回の選考はA社として非公開扱いにすると採用の方から説明を受けました」
「ああ、そうだったか…」
この時、N社長のスイッチが間違った方向に入ってしまった…。

面接後のSさんの話によれば、最終面接はとても盛り上がったそうだ。ベンチャーのA社としては、今回の採用には大きな期待をかけていた。社長にとっても、何でも事業を相談できる人物であって欲しいという気持ちがあったようで、今後の事業展開、人事構想などについてかなり突っ込んだ話があった。

数日後、Sさんは最終面接の手ごたえ通り、内定の連絡をもらうことになった。すぐに入社の意向が示され、これで転職の山は越えたかと思われたのだが、入社手続きのためにSさんとA社が直接やりとりをするようになった直後、我々はN社長が激怒しているという話を聞くことになった。

N社長の怒りの理由、それはSさんが他言無用の話をA社のなかでペラペラ喋っているというものだった。
「これからの事業戦略や人事について社内で触れ回ったりしたら、どういう影響がでるかわからないのか!」
これに対し、Sさんは恐縮しつつも
「他言無用なんて話は、ひとことも聞いていません」と反論した。

社長は「秘密求人」という意味を「求人や面接の内容を誰にも言わない求人」と誤解していたのだが、実際は「募集している事実を社外に漏らさない」という意味だったのである。
N社長はすぐにその間違いを採用担当に指摘され、Sさんに対する怒りを収めることにはなったのだが…。

「秘密と聞いてタガが外れたというか、胸の奥にしまっていたことをパーっとはき出してしまったんだよね。どうしたものか。」
N社長はドタバタを引き起こした自らの不明を嘆いていたが、関係者の反応は冷静だった。

Sさんは「ただの勘違いですから」と、入社意志にかわりがないことを連絡してきてくれた。A社のスタッフに至っては「社長は秘密って言ってますけど、飲みに行くといつも似たようなことを話してますよ。今さら別に驚きません」とのこと。

秘密といっても、大ごとに思っているのは本人だけ。他人にとっては「なんてことない」ということも意外に多いのかもしれない。

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